Junk Head

 Junk Head という映画を見た。ほぼ個人製作のストップモーション映画らしく、それを100分以上というのだからほんとうにすごい。昔自分でストップモーション動画を作ったときなど、1秒5フレームくらいで30秒ほどのものを作って飽きてしまったから(今考えるとあまりにも飽き性がすぎる)、その大変さは想像するに余りある。実際、この映画の製作には7年を要したとのことで、それも納得である。

 監督は堀貴秀という方で、これが初の監督作品とのこと。しかしこの作品がいくつかの映画祭で受賞を果たしているようで。すごい(小並)

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 簡単に劇中世界について述べておく。まずこの世界の人類は生殖能力を失う代わりに寿命を無限にする技術を手にしたものの今度は疫病で人口の3割が死ぬというわりと可哀そうな目にあっている。そして、その状況の打破のために地下世界の生命体の遺伝子情報を回収しようとしているらしい。この地下世界ははるか昔に人類が作り出した人口生命体が掌握しているが、それは自我の芽生えと共に人間を追い出して地下世界を掌握したらしい。そんな過酷な世界にて人口減の中ダンス講師では食っていけなくなった主人公が、地下世界の調査員に転職して地下に降りる…というところから物語が始まる。

 ぱっと見るだけで、個人的にはかなり好みの世界観。去年のいつかにYoutubeで予告だか本編映像チラ見せだかを見て以来気にはなっていた。知ったときには公開終了しており残念に思ってもそのまま忘れるのがいつものパターン、しかしこのたびAmazonPrimeに来たものだから大喜びで見た。

 見た直後の感想としては、正直不完全燃焼感があった。しかし3部作の第1作目というのを調べて知って納得した。まああの引きで続編がないわけないよね。続編を楽しみにしたい。本編全体の感想としては、とにかく世界観はすばらしい。ストップモーションというのもいい味出してたと思う。やたらめったら上下に広い地下世界(うろ覚えだけど階段登って2日とかいう案内あったよね?)と、一方でクッソ狭い通路、そうそうこういうのでいいんだよ感。途中に出てきたオートバイを動力に使ってるぽいリフト大好き。見上げれば霞んで天井が見えず、見下ろすとどこまで続くのか予想もつかない真っ暗闇、そんな地下世界の描写と相まってあのあたりのシーンのビジュアルが一番印象に残っている。階層都市(都市?)って素敵だよね。

 そんな若干おどろおどろしさすらある地下世界に住まうのははるか昔に人間が作り出した人口生命体「マリガン」と、凶暴なクリーチャー。マリガンたちはなんだかよくわからん炉の維持にその心血を注いでいたり、ガラクタ収集してその日暮らししてたり、はたまたごみを漁って飢えをしのぐ孤児もいたりそれに向かって石を投げる富裕層っぽいのもいたり。結局階級で争ってしまうのか…子に親に似る? とかくそうしてかなり社会的なコミュニティを形成しつつ、クリーチャーたちを狩ったり狩られたりしながら生きている。この「生きている」ってのが重要で、無機物に置換されて永遠を生きる人類との対比になっている。おそらくテーマのひとつはこれだと思う。

 テーマの話が出たので脚本の話をすると、超ざっくり言えば生殖能力をなくして永遠を生きる人類である主人公が、地下世界を「生きる」マリガンたちに触れたりクリーチャーに襲われて生命の危機を感じたりしながら、生きることの実感を思い出すというもの。そのさなかに天国とは何かとか、勧善懲悪というか悪は必ず滅びるというか、どう生きるか的なモチーフがちりばめてある感じ。王道と言えば王道だけど、王道は面白いから王道になるのであって。

 人類の未来も暗ければ舞台も地下なので文字通り暗い部分もあり、うつうつした作品かと思いそうになるが、そんなことはない。若干グロテスク(とは言っても小学生でも見られる程度。鬼滅のがよっぽどグロい)なビジュアルはちょくちょくあるが、ストップモーションで描かれているからかそう演出しているからか、なんだかポップな感じがする不思議。物語自体もちょくちょくコメディリリーフ的キャラが登場し暗くならないように進む感じがする。序盤から登場する3兄弟はなかなかのかわいい癒し枠だった。

 この映画の魅力はずっと言ってるけど、やはりストップモーションで描き出される世界でしょう。脚本について好き嫌いを述べられるのは3部作を最後まで見てからだと思う。それだけで見た価値はあった。まだまだその世界に関する謎はたくさんあって、多くの謎は残されたまま幕が引かれたので、続編での種明かしに期待したい。

 

 …ところで途中に出てきた高級食材っぽいアレ、どう見てもチ○(以下略